2020-01-01から1年間の記事一覧
「王様は裸である」と種明かししてしまった本である。 なぜ,やりがいを感じられもしない仕事で,真っ当な額の収入を得てしまっているのか。いい大人はそんなことを口にしないものだ。しかし,働いたことで価値を生み出し,そのことで生業として収入を得る。…
合唱がもっともヤバい。長時間,ひとが集まり,お喋りするのもリスク。いま,ナマの音楽,舞台芸術は,これまでとは別の世界にいる,と言っていいだろう。 不用不急−と呼ばれた芸術娯楽,まして音楽イベント,そもそも,じゃあ音楽って何なんだ?とこの機会…
「我らがGTこと高橋源一郎」と呼んだのは評論家になる前,自動車雑誌「NAVI」編集部にいた武田徹である。GTは自動車雑誌にも寄稿していた。当時,武田徹は誌内でタケちゃんマンと呼ばれていたが本人含め,どうでもいい話だろう。 さて,そのGTこと高橋源一郎…
自由と損得の話である。 人は,「選びたい」のだ。自分の意思や気分,欲求によって,選択したいのだ。そして,選べることそのものに自由を感じるのだ。わーい,コッチにするー。子どもか。 その一方で,人は迷う。どーしよー。コッチもいいけどー,でもなー…
感覚派の養老先生と理論派の伊集院の対談である。 二人に共通するのは,「嫌なことはしない」である。ただ,実家が太いこともあって,養老先生は好きな方を選び,嘘くさいことに疑問を呈してきた。多くの弟子を残し,本質を突く変わらぬ言動は重宝されること…
ただの喬太郎ファンブックではない。のちに貴重な柳家喬太郎自身の証言としての同時代史料となるだろう。 「古典落語をやるときには,古典落語をやるんだからこうできゃいけねえ,みたいなものがお客さんにもあるし,僕らの側にもあったりするわけですよね。…
吃る絵師の一代記である。 又兵衛は常に忸怩たる思いの中にいる。絵は絵では通用しないのだ。売り言葉に買い言葉である。絵の解釈,由緒,謂れのセールストークで,絵の価値を伝え,納得させることが必要である。そのことで絵を商品として流通させる。扇や衣…
すっかり古びてがんじがらめとなった旧癖をあらためる「風雲児」でよいのか。 茂十郎は理である。理屈である合理である。制度,仕組みを根元から,目的から捉え直す。そして,合目的に整えて見せる。鮮やかである。ゆえに痛快である。才気走る者とは,こうし…
「まるごと一冊 新型コロナウイルス特別号」だ。 とりわけ,ジャーナリストのフィリップ・モリスが寄せている原稿が興味深い。「2020年という年は,私たちの生き方と死に方に,想像を絶する変化をもたらした。旅立つ者は独りで逝き,残された者は,独りで悲…
ダジャレとは,何か。 オッさんが垂れるダジャレとは,ただただ,前頭葉の制御が困難になり,ポロポロと思いついたものをこぼすものか。違う。場の空気を読み,間隙を縫って,ここぞの場面をキメに行く,そんなダジャレもある。 コロナ禍でさらに名を売った…
コロナ禍の混沌の中で,何がどう語られたかの記録の一つになるであろう対談。 この文明社会のもとでは,パンデミックとはあくまでイメージトレーニング,想定論として万が一,起きたらどうなるかをシミュレーションしてみるのであって,世間一般には実際には…
人類まるごと,つんのめってコケている。コロナ禍で,コケて怪我をした程度も違えば,発した奇声も違う中,つまずきの原因となったウィルスを目にしつつ「たちどまって考える」ことを勧めている。 あえて言おう,司馬遼太郎の名コラム「この国のかたち」,そ…
世の中には,理不尽が溢れている。それ故,憤懣やる方なさが時にはみ出し,事件となる。 そんな理不尽,出鱈目,いんちき,ぺてんが通るものか,いや,通っちゃってるんだから,この世なのだ。なので,それを記して,悲劇と呼び,皮肉を言う。 流人と押送人…
閑話休題である。読む,という当たり前の行為を,一度,止まって考えようとという意図である。一時停止の標識を出されたようなものだ。 読む,というからには,対象となるテキストがある。テキストは他者が書いたものだから,その他者が書き記す意味や意図,…
読後,語る語る。語りたくなるのだ。読んでいる最中に絵が浮かぶのだ。 主人公・品川留希子の実家・品川家が経営する老舗料理学校「品川料理学園」のツートップである母と祖母。寺島しのぶと富司純子でどうか。いや,吉田羊と倍賞美津子でどうか。主人公・留…
遠州流祖・小堀遠州である。利休,織部に次ぐ,大茶人である。当代随一の茶人としての名声を得た。では,この遠州その人,その才気に伴っての狂気,凛気,癇気を持つ天才肌の難しい人か,と言えばおそらく,そうではない。義父に藤堂高虎という格別の役割を…
大著の学術書である。ただ,これを遠い異国の小難しいだけの本と片付けることができるか。ノンである。彼我を比較し,我々の地方自治体の現場を照射するのに,これほど適切な一冊はないのではないか。 議員の活躍の意義づけ,地方政府の行政サービスとはいっ…
「本書は,これまでにわかって来たこと,分かっていないことを多くの人に伝えることを目的として企画された」。この企ては成功した。「感染症は病原体に曝されなければ感染を避けることができる」。そうであるならば,「有効なワクチンや抗ウイルス薬ができ…
「京都ぎらい」パート2,である。煎じ詰めれば,首「都」で無くなった京都の妬み,そねみである。江戸が実権を持ち,商都・大坂が栄える中,京には「天皇がいる」。このことをアイデンティティにしていたのに…。 では,京都とは?を突き詰めてしまうと洛中…
世界的ベストセラーである。言うなれば,世界のみんながこれを読んでいる,ということだ。これまでも歴史の大著なら,いくつもあったわけだが,この本を多くの人が手に取ったのはなぜか。 征服者や為政者といった誰が統治したかが中心ではなく,人間そのもの…
歴史学者は,この面白さを独り占めするために,この男にずっと日の光を当てずにいたのではないかーそう思わせるほど,抜群に面白い。松永弾正久秀である。数寄者にして謀反を繰り返すクレージー爺い。茶釜「平蜘蛛」に爆薬を詰めて自害の全くわけわかんねー…
<パンデミックと闘い続ける人類>である。天然痘,ペスト,コレラ,赤痢,チフス,ポリオ,炭疽,狂犬病,敗血症,エボラ,これまでに人類が向き合ってきたこれらの感染症。直接,立ち向かった研究者や医者は,ジェンナーやパスツール,コッホなど偉人伝と…
大局観を持って現代社会を語れる知性である養老孟司。その後継者にもっともふさわしいポジションにいる山極寿一。二人の対談本である。互いが語ることは幅広い。何せ,虫を趣味とする解剖学者と類人猿をテーマとするフィールドワーカーの組み合わせだ。双方…
コロナ禍のいま,あらためて「病気とは」そのものから考える一冊。書評サイトHonzで活躍するオモロいオッちゃんである仲野先生が説く病理学である。 病気の学問である病理学の立場からは,医学や生物学で使われる論理の多くは,決して論理的な難しさがあるわ…
ザワザワするのだ。実際に,本人も周りも吃音であるーという認識なく暮らしているとしても,「私」が私のコントロールから外れていく様,もしくは,私から見て「私」がブレてしまう感じは,体への違和感や観察する自分の「意思」や,「感情」としての自分と…
薩摩閥の一残影の物語である。薩摩の系譜から兵器の代理商となり,莫大な富を築いた赤星弥之助の長男・鉄馬。同時代人に,吉田茂,白洲次郎,樺山愛輔らがおり,敗戦前に大磯に暮らしていたと言えば,明治期に英米留学したジェントルマンである人となりは伝…
類人猿の家族関係から,我々,人類を照射しつづける著者の一冊だ。「サル」は,ほのぼのしている存在か。ただただ,眺めていられる存在か。違うだろう。サルに見られる個体間のコミュニケーションとそれに伴ういざこざ。そして食。さらに性。こうした我々と…
おどろいた。まるで大河ドラマ「いだてん」の下敷きではないか。オリンピックと柔道家・嘉納治五郎にまつわるエピソードが順を追って現れる。オリンピックという特別な場とは?選ばれたスポーツ選手という特殊な能力を持つ者とは?を考える好著だ。 トップア…
縁あって京都で仕事をすることになった方の報告である。定年退職して,現役時代の知識や経験をもとに,京都に職を得たのだ。羨ましがられる立場であろうし,5年間の異邦人体験であった。 家族とともに移り住んだわけではなく,本拠を東京に残したままの単身…
手に負えなさ,とどう向き合うか。いや,手に負えなさを,どう自分の生活に導入するか,を問いかけた本である。それは,ペットであり,子どもであり,老いであり,病いであり,自然である。 言葉や理屈でどうにかなるのは,大人だ。だが,かつては,大人が大…