「法化社会」到来と法を読み解くセンス


 先日,川田昇 著「ゼロからわかる民法」を入手し,現在,中途まで読んだところだ。この「はじめに」において,

今後ますます進行をはやめると思われる「法化社会」で生きていくために必要な法的センスを磨く一助となることを目的としています。


川田昇 著「ゼロからわかる民法


と,本書の意図が書かれている。
 先日来,「小池防衛大臣 vs. “防衛省天皇”守屋事務次官」と世間を賑わした件について,マスコミでは面白おかしく取り上げるのみで,法的に必要な手続がとられた上での「処分」だったのか,の冷静な検証が欠けていた。
 これについては,branchさんが次のように整理されている。


まず、原則として、各省の職員の任命権については、各大臣に属している。その根拠は一般には 国家公務員法 第55条第1項 なのだが、防衛省職員のほとんどは特別職である(同法第2条第3項第16号)ため同法の適用がなく、 自衛隊法 第31条第1項 がその根拠ということになる。なお、念のために述べておくが、事務次官を含めて防衛省職員のほとんどは、自衛官でなくても自衛隊員である(同法第2条第5項 )。

 では、防衛大臣が任意にその権限をもって事務次官を任命できるかというと、そうではない。経緯をたどれば、橋本総理(当時)が自ら会長を務めた行政改革会議にさかのぼる。その 最終報告(平成9年12月3日)において、内閣機能の強化の観点から、内閣及び内閣総理大臣の補佐・支援体制に対する抜本的変革の一として「各省庁の次官、局長等幹部人事については、行政各部に対する内閣の優位性を明確にするため、各大臣に任免権を残しつつ、任免につき内閣の承認を要することとする。」との文言が盛り込まれた。これを踏まえ、 中央省庁等改革基本法に「国の行政機関の事務次官、局長その他の幹部職員については、任命権者がその任免を行うに際し内閣の承認を要することとするための措置を講ずるものとする。」との規定(第13条)が設けられ、これに基づく措置として、中央省庁等改革推進本部における検討の結果、「国の行政機関の事務次官、局長その他の幹部職員の任免について、閣議決定により内閣の承認を要するものとする。」こととされ、それは「事務次官、局長その他の幹部職員の任免に際し内閣の承認を得ることについて」(平成12年12月19日閣議決定)により具体化され、幹部職員についてはあらかじめ閣議決定により承認を得た後に任免を行うこととし、それに先立って官房長官及び 3官房副長官からなる閣議人事検討会議を開催することとなったのである。


続・航海日誌 2007年8月14日(火)


この「事務次官、局長その他の幹部職員の任免に際し内閣の承認を得ることについて」(平成12年12月19日閣議決定)は,平成19年7月24日 内閣官房行政改革推進室の


「国家公務員の採用から退職に 係る現状について」


でも典拠とされているので今も生きている。つまり,現状,閣議決定を経なくては,各大臣は事務次官等の幹部の任免が行使できない。
 もし,マスコミが大臣が幹部職員の人事権を自由に行使できない(行使するためには所定のプロセスを要する)ことを問題にするならば,この平成12年12月19日閣議決定の廃止を求めるように主張すべきだ。それこそが「法化社会」にあるべき言論ではないか。
 もしかすると,必要な法的センスが磨かれていないのか。それは,中央政府だけではなく地方自治体をも取り巻いている問題なのかもしれない。ロースクール出によって増加する法曹人口に任せるだけではなく,法をわかり易く説くようなセンスも求められているとも言えようか。



新書376ゼロからわかる民法 (平凡社新書)

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