役所内改革を実践中,実践したいと思っている自治体職員へ贈る改革メッセージ・テンプレート


 一定規模の会社組織となると,会社で働く顔をあわせることのない社員とのコミュニケーションや社内各部署の理解,士気の高揚などを目的に「社内報」がつくられることが多いし,それが日本型経営のツールの一つともいえよう。最近,この「社内報」も見直される風潮にあるというから,その価値も見過ごせないということなのだろう。
 以下に書いたのは,評判の高い柴田昌治著「なぜ会社は変われないのか」の冒頭,主人公が社全体ではなく自らの開発部門内のミニコミ誌「開発だより」に寄稿した社内改革のための檄文「社員の力で会社を変えよう!」を,役所向けに言葉を入れ替えた(だけ)のものである。
 オリジナルが,なかなかストレートなだけに,組織改革を目指す意気込みは語句を変えてもそのままであり,十分に刺激的だ。きっと,役者内改革を実践中,または,これから実践したいと思っている熱い自治体職員には,これくらいが丁度いいだろう。実際に自分の役所でお使いになるには,都道府県や首長と表記しているところなど,固有名詞にしてくだされば良いと思うので,役所内で発行される職員向けの「庁内報」などで,あなたのメッセージのテンプレートとしてご活用ください。
 ちなみに,この文をもとに実行に移された後,あなた自身がどんな火炙りや爪弾き,残虐非道にあおうとも,私は責を負わないので,そのつもりで。改革が進みましたら,一緒に祝杯をあげましょう。ちなみにオリジナルでは,主人公はハッピーエンドに向うが,この寄稿がもとで役員が並ぶ「経営会議」に呼ばれることとなった。
 では,みなさんの健闘を祈る。

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職員の力で役所を変えよう!


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 ご存知のように,地域や自治体をとりまく環境の急変によって当自治体の財政はここ数年悪化の一途をたどり,数年前から危機的な状況に陥ってしまいました。
 しかし,正直なところ誰も決していい加減に仕事をした覚えはありません。みんなそれなりに一生懸命努力してきたのです。その結果がこの財政状況です。
 現在,当自治体は財政再建をかけて構造的な転換策としての支出構造の見直し,業務改革に着手しており,その一環として行政マネジメント推進委員会もつくられました。みなさんの中に,また何か始めたな,この忙しいのに役にも立たないことをやって足を引っ張らないで欲しいと思っていらっしゃる方が多いことは十分に察せられます。なぜなら,私もこの行政マネジメント推進委員になるまでは正直なところそう思っておりました。
 立場が変わると,今までの自分のことはコロッと忘れて「建前」でみんなを追い立て,尻をひっぱたくのが人の常です。じつのところ私も,そういうことをすべきなのかと一時は本気で考えておりました。
 しかし,この間,いろいろな情報を役所内外で集めるに及んで,そういうやり方では改革は決して成功しないと確信するようになりました。
 もちろん,緊急を要する場合には手術も必要です。しかし,そのためには手術を受けられるだけの気力と体力が必要です。ところが,今の当役所には体力はおろか気力もありません。そういう患者の状態を見ないで,患者の声に耳を貸さないで手術を断行すると,病気は確かに治ったが病人はショックで死んでしまったということにもなりかねません。
 もし当役所が今,手術が必要なほど,病んでいるなら,その手術をするためにも気力・体力をつけることがもう一方で必要です。
 では,私たちの気力・体力をどうやって回復,強化するかというと,それは当役所の風土・体質を変えることに他なりません。


口ばかりの評論家体質
 役所内には評論家が氾濫しています。みんなお互いに不信感を持って批評・批判・愚痴・悪口のオンパレードです。前向きの話しは極めて少ない。
 不信の中でも一番大きいのは,おそらく首長,特別職及び理事者に対する不信感でしょう。
 残業を重ねて休みの日は寝るだけの生活になるほど職員が一生懸命やっているのに,住民の不満は高く,財政危機になるのはなぜなのか。しかも,上から命じられたことはきちんと結果を出してきたではないか。本当に当役所の首長,特別職及び理事者に地域を経営する能力はあるのか−−多くの職員はそう思っています。特に国,都道府県から来た理事者の中には,どう役に立っているのか分からない人もいます。
 そういう理事者に対する給料を出すのも地方交付税補助金に対する補償だと思えば仕方がない。でも,せめて口出しだけでもしないように,どこかの部屋に閉じ込めて外から鍵を掛けて出てこられないようにしてほしい,という声もあるほどです。要するに,仕事はしなくてもいいから邪魔するのだけはやめてほしいということです。
 次に多いのが企画部門や人事部門に対する不信感です。
 次から次へと数字だけの要求を出してくる企画や人事,経理に対しては,恨みを通り越して辟易しているというのが偽らざる現実です。少しは実情を分かってくれよとみんな思っています。
 窓口や現場に対してはいつも厳しい要求ばかり出され,ラインの人数もかなり削減されました。それに引き換え,官房の人間はいっこうに減ったようには見えません。なぜ,現場ばかり,次から次へといろんなことを押しつけられるんだと内心ではみんな思っています。
 そして,上の人間は最近の若い連中のだらしなさを嘆き,下は下で上の人間に能力がない,マネジメントができないから余計に状況が悪くなるんだと思っている。どうせあんな上司に話しても聞いてくれるわけではない,自分一人が何を言っても始まらないというあきらめがあります。その行き着く先が不信感の蔓延です。
 多かれ少なかれ,みんなが感じているこれらのことは事実を反映しているといえるでしょう。しかし,問題は,みんな文句を言うばかり,愚痴を言うばかりで「だからどうする」という姿勢が無いことです。評論家ばかりで当事者がいないのです。
 業務の範囲では,誰しも自分で実行せざるを得ないという意味では当事者です。しかし,それは文句を言われないために最低の義務を果たしている,目の前に現れるモグラを叩いているだけで,その現状に問題を感じていても解決しようとするわけではありません。それでいいのでしょうか。


体質を変える改革のために
 第一は,首長,特別職及び理事者側が改革に対して本気であることを,口で言うだけでなく行動で示すことです。
 職員の賃金カットをするなど人の懐に簡単に手を突っ込む割には,理事者の姿勢に厳しさが見られません。理事者の数は減らないし,手当や待遇も減ったようには見えません。職員に「変われ」という前に,まず首長,特別職及び理事者が自分から先頭に立って自分が変わることを実践するべきです。
 そのような首長,特別職及び理事者の姿勢とリーダーシップがまず最初に必要です。
 第二は,職員が自分のこととして役所の改革を本気で考えることです。あれこれ論評することは誰でもできます。しかし,必要なのは自ら手を汚す当事者なのです。
 誰のためでもない自分のため,自分の役所のため,自分の役所を良くするために,そして家族に自分の役所を誇りに思ってもらえるようにするためにも,身の安全だけを考えてモグラ叩きに精を出すのではなく,言うべきことは言い,やるべきことはやる。そんな社員がいるかどうかが体質を大きく左右します。
 いまのところ,そんな人は残念ながら見当たりません。しかし,そうありたいと思っている人は私の周りにも結構います。それを束ねるものがなかっただけで,問題を感じて何とかしなければと思う人間は確実にいるのです。
 何もみなさんに特攻隊になれと言っているのではありません。一人でやれば討ち死にします。これは確かです。一人でなく仲間とともに協力してやれば役所は変わるんだということを私は言いたいのです。首長,特別職及び理事者とも協力しながら役所をより良くしていく,そんな「役所内ボランティア」が必要だということです。
 第三は,生きた情報がどんどん流れるようにするということです。
 先に行ったヒアリングの場でも「情報の絶対量が少なくて役所の実態がわらかない」「上司が情報を殺して伝えている」といった内容の指摘がずいぶんありました。
 やはり先日「若手職員の率直な意見を聞きたい」と声がかかって,私も首長との対話会なるものに出席しました。ところが,あとで庁内報にまとめたものを読みますと,あたりさわりのない内容だけが綺麗にまとめられていて,これはみんなにも知ってもらいたいと思った話は,まったくといっていいほど出ていませんでした。もともと,あの対話会ではあまり本音の話は出ませんでした。でも,庁内報の記事はそれに輪をかけて通り一遍です。一事が万事で,そこから何かが生まれたり,気づいたりするような生きた情報が流れにくい体質になっています。
 たとえば,決定したことは伝えられても「なぜそうなったのか」という話は噂話でしか流れない。逆に,下からの情報や意見も上には正確に伝わっていません。こういう状況を変えていくこと,こういう体質を変えていくことこそ改革の第一歩であると私は思います。そして,それが今やっている行政マネジメント推進委員会の仕事だと思うのです。
 私自身,給料が年々減っていくような状況がここ数年続き,家族のことを考えると正直いって先に不安がないわけではありません。でも,このまま受け身を続けていたら事態は悪くなるばかりで何も好転しません。日を追って,その思いが強くなってこの原稿を書きました。一人じゃなく,みんなと一緒にやれば何かが変わる。そう信じて,私も逃げずに行動したいと思っていますので,みなさんもぜひ行政マネジメント推進委員会のこれからの改革活動にご協力ください。


 みなさんのご意見,ご提案をお待ちしています。
 内線または電子メールで「●●課・●●」あて,ご連絡ください。

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