「埋蔵金男」のあだ名は決して上品ではないし,それが流通していることにどうかとは思うけども,このあだ名で高橋洋一がピンと来ないようでは新聞を読みはじめるか,取っている新聞を変えるかした方がイイ。このあだ名をタイトルに入れた新書をid:finalvent先生が評していたのだが,
高橋の真骨頂は、意外と経済ではなく、この地方分権への情熱にある。
とあったので急ぎ,本屋で手に入れた。「埋蔵金男」と地方分権である。
本題に入る前に,この本はスープである,と言っておきたい。冷めないうちにどうぞである。なぜか。時代の空気を共有できるうちに読んでおいておかないと読めるスピードが一気に落ちるからだ。それは次の2つの章のインタビュアーの最初の質問に現れる。
−−特別会計といえば,ガソリン税をめぐる議論が記憶に新しいところです。(第二章)
−−日銀総裁は三週間も迷走した上に,やっと新総裁が決まりましたが。(第三章)
ガソリン税,日銀総裁が連日報道されて“踊った”感覚が生々しいうちに読むべきだと言いたい。数年の後に,これらが同じ年の出来事であったかなどと思い出そうとしながらページをめくるようではノッてこないだろう。ちなみにこの第三章には,
−−最近,原油価格の高騰で物価が上がってきましたよね。そうなると,引き締めた方がいいのでしょうか。
ともある。この辺りをとくに記憶をたどることなく質問者と同じ感覚でいられる内にどうぞ,なのだ。まあ,余計なおせっかいだけど。
さて,ここから高橋の言う地方分権の姿について話しを進める。
普通の人は地方分権っていわれても,なぜしなければいけないのか,たぶんよく分からないと思うけどね。
(略)
ほんとうの意味の地方分権というのは,権限もお金も全部地方に来るから,地方がすごく責任が重くなるんだよね。
(略)
ヒト,モノ,カネを全部地方にやるのが本当の地方分権なの。
たぶん,これでもたいていの人はわからない。「全部地方に」来たときの国はどんなものかイメージできないからだ。高橋はそれを,
国土交通省というのは絶対に国の機関にならないで,道州の機関でしょう。
文部科学省なんていうのは,たぶんなくなるよね。もし残っても省なんてものはない(笑)。人づくりのところだから,たくさんある地域コミュニティーだとか,区立や市立中学とか,一番下の「市町村」でみんな終わっちゃうかもしれない。
厚生労働省も,年金みたいに,国の制度としてある程度公平にする仕事というのは国に残るかもしれないけれど,介護とか福祉なんかは,もうほとんど地方の機関になっちゃう。
総務省もたぶんないし,農林水産省も道州レベルの機関だよ。経済産業省は,経済外交をやる通称部みたいなのは残るかもしれないけれど,普通のセクションは全部道州か,もうちょっと下の基礎自治体になるんじゃないかな。
これを地方の側から見ると,道州には,現在の国土交通省,厚生労働省,農林水産省の仕事が,基礎自治体には現在の文部科学省,経済産業省の仕事がやってくる。やや乱暴だがこうなる。すると,ポイントはどこか。地方の側には,自分たちの内側にこれだけの仕事を抱え,マネージし目標を達成する気構えが当然ながら,ありますよね?ということだ。日寄ってる場合ではない。地方分権とは,そういうことだ,と高橋はいうのだ。これらを地方の側が地方の側の責任で決めるのだ,ということだ。政策に失敗したら?そう,国は責任をとってはくれない。分権だから。「権限もお金も全部地方に来」ていて,「地方がすごく責任が重くな」っているから。これに堪えられる?いま,つきつけられているのはコレだ。フンドシの締め直しはオーケー?
この結果,国は,
となっちゃう。僕らの国のイメージとは全然違う,すごくスカスカした国の姿だ。
ただ,そんなことで気分が晴れてはいけない。高橋らしくカネの話しへと進もう。
消費税はどっちになるか分かる?たぶん地方税になっちゃうよ。消費税みたいな安定的な税源というのは本来,マクロ経済政策がなくて景気対策ができない地方が安定的に行政をするためのものなんです。
(略)
おそらく多くの人は消費税の目的税化の議論と地方分権との結びつきに気がついていないと思う。
省略したのは消費税を社会保障税にすると国税のままにしておけると財務省が目論でいるという説についてだ。この消費税を含む地方の税について,
もし地方分権をたくさんすれば,地方議会は変わるかもしれない。今の地方議会は,けっこうへんちくりんです。
普通,議会で一番重要なのは税金をかけることなんだけれど,地方で地方税の法律をつくれる人はいないと思う。お金を国からもらうだけなら,首長さん一人いれば十分じゃない。地方税は今,ほとんどないんだよ。
変なんだけれど,地方税は政府税調で議論されるんだよ。なんで地方税の話しを政府でやるの?不思議でしょうがない。
「地方で地方税の法律をつくれる人はいない」とは高橋の事実誤認だけど口述だと思えば,そういう表現にもなるか。この前段の消費税の話しとあわせ,税率を自分たちの必要と責任において増税する。もらうのではなく,地方における立法府として税を課す。それに堪えられますか?ということだ。
しかし,そんなこと地方の言い分なんかともかく,
これから地方分権をめぐって,官僚内閣制の厚い壁と政治家との猛バトルが始まるでしょう。政治家の方も,国会議員が三分の一ぐらい少なくなるのを覚悟してやらないとできないね。
バトルの理由はなぜか。
小さな政府をめざせば「地方分権」に行き,地方分権をきちんとやるためには最後は道州制になるんだ。そのうち,「大きな政府」か「小さな政府」かという政治闘争がますます激化すると思う。
この「大きな政府」か「小さな政府」かという話題は,いくつか引用できる部分もあるのだけど,一部を切り貼りしてしまうとかえって誤解をまねくので引用はしない。国がもっている資産を少なくすることが「小さな政府」への手段の一つなのだけど,官僚が自分たちの都合でつかえる金をなくし透明で,かつ,世界で当たり前の金融政策でもって経済政策をすすめることだ,と言うにとどめたい。せいぜい変動相場制では財政政策は効果がない,と追加しておこう。
世界とカネの流れがつながった現在,地域におけるインフラ(ハードや制度ね)については道州が,身近な生活に関わることは基礎自治体が,そしてそれらでは肝心のカネについても必要なら自分たちで税を課す。それが,地方分権だということだ。
アー・ユー・レディー?
なお,冒頭のid:finalvent先生が「高橋の真骨頂は」との部分は,プリンストン大学での若き日に経済を学び,その神髄として,
なぜ政府が小さい方がいいのかというと,それは市場経済を信じているから。増税派の人が資産の圧縮の話をしないのは,おそらく大きな政府を信じているからだと思う。
と自らの市場経済への信奉により,
分権国家というのと,市場経済というのは結構マッチするんだよ。統制経済と違って,市場経済は,個人個人が市場の主体となるという意味で分権の最たるものだから。
と語る学者としての高橋が理論ゆえに導きだしてしまうものとしての「地方分権」だといえるのではないだろうか。
- 作者: 高橋洋一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/05
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