ブログ・エントリーの更新が進まなかったのは,日常の些細なことで気ぜわしさが相も変わらず続いていることもあるのだけど,リーダー論やチームマネジメントについて考えることが頭から離れず,うーん,とうなっている間に寝てしまって,手が止まっていたためだ。
いくつか本をめくり直した内,今回は,レストランが現場の本から。
お店の雰囲気を満たしたり,チーム名との力を満たす……それがぼくの今の役目です。だけど,ぼく自身の個人的な自由や快楽を満たしたら,明日はないんですよ。料理長として,コート・ドールに訪れる人が感じてくださる豊かさを満たしてはいるのですが,その豊かさの中に,自分が浸ることはできない。
危機感を持っていないと,ぼくは料理長でいられないから。
自分の役目が終わるまでは,無心な気持ちで「おいしいね」と料理を食べることはできないでしょう。何の考えも無く日々を過ごすことはないはずです。
p.124 「調理場という戦場」 斉須政雄
こうしたシビアさがリーダーを自律させるわけだが,危機感の表現とは何もピリピリしていることではない。
オーナー本人がやっていることと言えば,一日じゅう掃除をしている……ほとんど掃除をしかしていない。彼の印象に残る姿と言えば,「掃除をしている姿」です。
レストランで何よりも重要なのは「清潔度」だということや,お客さんに対する家庭的な態度……ぼくは大切なことの大半を彼から教わったような気がします。仕事場のありようや空気は,そっくりそのまま仕事に映し出されると知りました。
大切なのは,簡潔であり,清潔であり,人間性があるということです。
「整理整頓」がなされていることは,仕事がきちんとなされるための基本なのだ」ということが,このお店に来てよくわかった。乱雑な厨房からは,乱雑な料理しか生まれない。大声でわめきたてる厨房からは,端正な料理は生まれない。
最初は掃除の回数が多いことに驚きました。仕事が一段落したら,いつも掃除をしているのです。
p.91〜92 「調理場という戦場」 斉須政雄
掃除をとても大事にしているので,ディズニーランドのように,お客さんが園内を汚してくれれば,それだけ仕事が増えるのだ」と思いながら仕事を楽しんでいる環境を,すばらしいなぁと思います。ゴミを投げ捨てる人に注意するのではなく,自分に「ゴミを拾う」という仕事を与えてくれたと思って拾う。………そういう意識を持っていれば,きれいが当たり前ですから,汚くなるはずがない。
リーダーが抑圧的にきれいにしろと言うのでないでしょう。自然と「きれいなのが当然」という環境を作るのがリーダーの務めではないかと思います。ヴィヴァロワのベイローさんは,そこがすごかった。オーナーのものの扱いがどれも丁寧だから,だれもが見習う。しょうがなく従うのではなく,見習いたくなるのです。
(略)すばらしい環境の中にいると,自分もそうなりたいと思えるのです。
ヴィヴァロワにあるものは,どんなところに置いてあろうと真心がこもっていました。そこらへんに置いてある出しガラの骨でさえも,おいしそうに見えました。
一生懸命働こう。いろいろなことを覚えよう。
自然とそう思えるのです。すべてを教わったと言ってもいいかもしれません。
「教わった」と言っても彼は具体的には何も注意しませんし,教えたなんて思っていないでしょう。常に,好きだからやっているという姿勢でお店にいる人だったから。そしてその「好きだから」という考え方で行動すれば,当たり前の日常で,みんなが楽しくやれるんだなぁということも,ほんとうによくわかりました。
商売をやっているんだか,遊んでいるんだか,何をやっているかわからない人なのです。
そして,精神的にも物質的にも,常に人におみやげをあげていた。
p.98〜100 「調理場という戦場」 斉須政雄
そう,仕事への距離感,つまり「好きだからやっているという姿勢」の表現を,それこそ「自分に『ゴミを拾う』という仕事を与えてくれた」ぐらい思って取組んでりゃ,チームみんなが楽しく,やれる。そのための環境づくりがリーダーの仕事なのだ,と。
アイデアを思いつくことはとても大切ですが,そこからがリーダーの仕事になるのです。アイデアが一だとしたら,そのアイデアが使えるか使えないかを見わけることに一〇ぐらいの力がいるような気がします。
そして,最も大切な「アイデアを実用できる生産ラインを作ること」には,一〇〇ぐらいの力を必要とすると感じています。
アイデアは,実用化無しでは生きられない。
やれたかもしれないことと,やり抜いたことの間には,大河が流れている。
そして,料理を実用化するというのは,自分が作れるという意味ではなく,チームで生産できるようにするということです。戦場のような忙しさの中で,他の料理の合間に責任を持って作ることができるかどうかは,とても大切でしょう。
p.119 「調理場という戦場」 斉須政雄
この辺りも共感できる。「やり抜く」である。この当たりはリーダーとしての信用の問題でもあるね。大事だ。
最後に,リーダー論ではないのだけど,この本で一番好きなところを,
採用するかしないかを決める基準は,ふたつだけです。
気だてと健康。
そのふたつには,余計な作為が入ってないからいいのです。どこを切っても裏表が無く人に接する人はすばらしい。
まわりの誰もが「あ,この子は何でも嫌がらずにやるな」と,憎からずに思うでしょう?
そう思ってもらったら,もう成功の切符を手にしたようなものです。そういう人ならどこに行ってもうまくいくでしょう。
p.257〜258 「調理場という戦場」 斉須政雄
こう言ってくれる大人がいるだけで,どれほど子どもたちが勇気づけられるだろう,と思うのだ。
- 作者: 斉須政雄
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2002/07/10
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