「言わなければ伝わらない」が,言えるような関係構築も必要だろう


 ◆ シンポジウム「いま『言語力』が危ない−読書は言葉を救えるか」(8月20日)(財団法人 文字・活字文化推進機構 | イベント情報・ニュース)の採録記事より。

そこで実感したのは「言わなければ伝わらない」ということでした。
 グローバル化が進み,価値観が多様化しする社会では,何ごとも言葉で説明することの重要さが増します。
 また,社会の変化が急速な時代には,知識を単に覚えるより,新しい知識や情報を使いこなす頭脳が求められます。


基調講演 北川達夫さん シンポジウム「いま『言語力』が危ない−読書はことばを救えるか」
朝日新聞 2009年(平成21年)9月4日


 異なる価値観を持つ人に自分の考えを述べる。とりわけ,書かれていること理解し,その背景を推論し,その内容と自分の考えを照らし合わせる。この考えるプロセスをとおして,ものを言うことになる。
 この「言わなければ伝わらない」は,パネル討論でも話題になる。

 秋田 大学生の娘が,「言いたいことがあってもうまく言葉で言えない」と。様々な心情語彙で丁寧に表現しないと伝わらない感情や感覚を,「チョームカツク」「ウザイ」と一言発して,後は察してもらうことに慣れてしまっているのでしょう。
 北川 「察してもらう」は,日本人同士では成り立つけれど,異文化から来た人には通じませんからね。
 平野 価値観の違う人たちがいて当たり前の世の中を生き抜くには,言葉を使ってお互いの考え方を調整しないと。フランスで1年暮らして痛感したのですが,とにかく言葉ができないのは圧倒的に不利。自分の考えをうまく伝えられず,相手のことも理解できず,ストレスもたまる。豊かな言語を持っていれば,その分生きていきやすい。


パネル討論 シンポジウム「いま『言語力』が危ない−読書はことばを救えるか」
朝日新聞 2009年(平成21年)9月4日


こうして,その言語力をつけるために読書のススメが展開される。
 だが,果たしてそうなのか。価値観がエントロピーの法則のように拡散していく中,無言でいて察してもらうようなことは期待するだけ虚しい。だから「言わなければ伝わらない」。「丁寧に表現しないと伝わらない感情や感覚」の持っていく場所があるのか。問題は,そこにあるのではないか。明らかにコミュニケーションを遮ってしまっている,もしくは聞くふりをしていても忙しい素振りや,結論を急かせるような面倒がりぶりで,どうして言葉を尽くして伝えようと言う気になるだろうか。
 日本は「読解力」が低下したのだそうだが,相手の気持ちや心を読み解くために,自分のことだけを考えて,自分の聞きたいことだけ,自分の関心のあること,好きなこと以外を受付けない日本人が増えたということなのではないのか。
 思いやりとは相手のためのスペースを自分の中につくるということだ。他者,他人様を思う愛を失った自己愛ばかりの「チョームカツク」「ウザイ」社会なのではないのか。

 平野 (略)僕たちは,一方的によい,悪いが通じない時代に生きている。相手が何を考えているのか,まず理解しなければならない。その上での賛成,反対ですから。そのためにも,言葉の力を鍛えることは大事だと思います。


パネル討論 シンポジウム「いま『言語力』が危ない−読書はことばを救えるか」
朝日新聞 2009年(平成21年)9月4日


 言語力は必要だし読書は大事だ。それによって愛が増えてくれれば,イイのだが。