「暗い」「明るい」などの印象論を捨て,きちんと政策形成に向かうことが求められているのだ,という当たり前のこと。松谷明彦・藤正巌著「人口減少社会の設計」を読んで。


 「日経ビジネスオンライン」の最近のコラムで次の連載が人気を集めている。現在の主流の論とは異なるものの,たしかに論理明解で,うなずいてしまうことも多い。経済というのは,どれが,奇説・珍説なのか,素人には判然としない。だが,せっかくなので,ぜひ,読んでみてほしいし,経済政策として,とるべき方向はどちらなのか教えていただけるとありがたい。


三橋貴明 暴論?あえて問う! 国債増発こそ日本を救う:日経ビジネスオンライン


 経済以外にも,社会政策の主流の論について考えさせられる本と出会った。きっかけは,たまたま,読んだ永江朗の書評だ。

 このまま少子高齢化が進むと,日本は大変なことになるぞ,というのが最近の風潮である。結婚をしない人や子どもを持たない夫婦は非国民か?いやな雰囲気だ。評論家もマスコミも,どうしたら女性がたくさん子どもを産むようになるかという話ばかり。おいおい,豚や鳥じゃないんだから。
 西欧の小都市は,平日の昼前から賑わっている。日本の地方都市とは大違い。松谷明彦と藤正巌による『人口減少社会の設計』は,そんな話から始まる。マクロ経済学・財政学の専門家と医学・物理学の専門家という,異色の組み合わせによる共著だ。
 少子高齢化は日本だけが抱える問題であるかのように錯覚しがちだが,西欧の先進国では共通してみられる減少である。もっとも,著者によると「少子」に該当する英語は無いのだそうだが。それなのに,なぜ西欧の小都市は賑わい,日本の地方都市はゴーストタウンになってしまったのか。答えは簡単だ。日本は人口が減少することがわかっていながら,それに備えてこなかっただけの話である。
 人口が減ったからといって大変なことになるわけでも,人々が不幸になるわけでもない。そのことを本書は,人口が増え続けているとき,日本人は幸福だったか,という逆説的設問によって明らかにする。日本は名目上金持ちになったかもしれないけど,日本人が幸福になったわけではない。
(略)人口が減っても快適に暮らすにはどうすればいいかを考えたほうがいいし,そちらのほうが切実だ。
 年功序列と終身雇用。利益率より売上高,低い労働分配率長時間労働。こうした日本型経営は,人口が増え続けることを前提にしてきた。人口減少に備えるということは,旧来のシステムをやめて,新たなシステムを作るということである。


p.18〜19 「いまどきの新書—12のキーワードで読む137冊」永江朗著 内「少子化なんか怖くない『人口減少社会の設計』松谷明彦・藤正巌 中公新書


 2002年6月に出された,この本。まったく知らずにいた。よい書評に出会ったことを喜び,手にしてみた。驚いた。こんなにも,正面から人口減少社会について的確にとらえている本はないのではないか。
 序章において,人口減少から「未来は暗い」とすることについて,真っ向から反論する。医療費や社会保障費の増大,経済規模の縮小,労働市場の縮小など,こうした現象による懸念を,ことごとく論破する。
 そして,日本社会独自の問題をつく。「労働時間当りの所得」をもとに,幸せの実現具合を検証していく。そこから浮かび上がる終身雇用・年功賃金がある特殊条件の下に産まれたのに過ぎないのに,金科玉条として「日本型経営」を象徴させていくカラクリを暴いていく。
 なにが,あったか?著者は言う。「賃金上昇が人為的に抑制された」(p.49)。これこそが,1990年代初頭以降の景気停滞につながるのだ,と。次々と明らかにされる我々の社会の鏡像は,ミステリー小説を読むようだ。
 これまでの社会について解き明かした後,将来像に語られる。ここでは悲観論を徹底的に退ける。このことについては,ぜひ,ご一読願いたい(引用し出すと止まらなくなりそうだから)。そして,人口減少社会への対処法が書かれる。この部分,完全な処方箋ではないが,ヒントが十分に書かれている。「農業を核とした地方経済」の項もあるが,農業とは,あくまで移出産業の象徴だ。
 タイトルのように「人口減少社会の設計」は,われわれ自治体職員の政策形成・実施能力に課せられている。悲観論に流されず,立ち向かうための良書だ。
 読まれた方とは,ぜひ,意見交換してみたい。


人口減少社会の設計―幸福な未来への経済学 (中公新書)

人口減少社会の設計―幸福な未来への経済学 (中公新書)

いまどきの新書―12のキーワードで読む137冊

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