専門バカをヒエラルキーの上層にあげない組織運営こそが大事かもよ


 大学とは,学問が好きで研究が好きで,それが高じて門をくぐってしまう学びの探求の場である一方で,社会に有為な人材を供給するエリート要請の場でもある。やっかいなのは,この後段。「人材」の定義が時代によって,コロコロ変わることだ。

 京都、大阪、慶応の3大学が、文理統合型の新たな大学院プログラムを導入する。理系の学生にも哲学や宗教を学んでもらい、環境・資源、高齢社会など、一つの学問領域だけでは解決が難しい課題に対処できる人材を育てる。いずれも一学年20人程度とし、修士・博士課程の5年一貫教育を計画している。


朝日新聞デジタル:文理超え学ぶ大学院 5年一貫、京大・慶大など導入へ - 受験ニュース - 2012年度大学入試センター試験 - 教育


昨年来,日本が,いや違うか,日本人を取り巻く状況が大きく変わった。これまでどおりの所与の条件をもとに最適解を最速で出せばヨカッタものが,今は違う。様々な,しかも随時変動するパラメーターに応じて柔軟に,かつ粘り強く答えを出すだけではなく,むしろ問題を再定義できることが重要になった。
 これだけの社会変化が起きているのだから,複数の学問領域により解決を目指す人材のニーズが顕在化した,というよりも,一つの学問領域に凝り固まった視野の狭い連中が跋扈することの弊害が社会を壊しかねないほどに目立つようになったためだろう。

 今回のプログラム開設には、大学進学率が50%を超える一方、博士号の取得者数は近年、低迷している事情がある。限られた分野のエキスパートだけではなく、広く社会で活躍できる人材を育てることで、大学院としての魅力を高めるねらいだ。これまでは、修士と博士課程の区分性も強く、一貫性に欠けるという問題意識もあった。
 経済のグローバル化が進む中で、産業界からも「国際的に活躍できる優れた人材の育成システムが必要」という要請が強まっていた。


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限られた分野のエキスパートが,「人材」として社会で活躍しちゃう組織運営を直していかないと,大学院改革を進めたところで,学生を巡って大学と社会の二重のロスになる。
 なぜ,限られた分野のエキスパートが専門バカとなって,結果として問題解決を遅らせるのか。身につけた専門分野に安住し,その領域を人質にとってでも侵されないことを最大の価値としてしまうからだ。そんな彼らの行動原理を変更を迫らなくては,後に続く複数分野を身につけた新人にとって組織の壁ばかりが目立つ一方で,やっかいなのは,将来的に複数分野を人質にとった,より強固な専門バカができあがってしまうことだ。
 では,どうすればよいのか。1)限られた分野であってのそのマネジメントとエキスパートであることを分離すること,2)限られた分野だとしても客観的事実と意思や思いとを分離して,一般に理解可能なように常に説明させること,3)情報公開と記録を機械的に行うこと。云々。こうしたことが既存組織の運営上,行われなければ,どれほど複数分野を身につけたニューカマーを入れたところで,彼らがまっとうに活躍しないと思うのだが,どうだろう。