カップルづくりを若い男女の当事者責任にしておいたままじゃ,結婚や子どもは増えないと思うよ。


 私の大好きな漫画家・しりあがり寿先生が,東日本大震災に関してのインタビューの最後に,次のように答えていて印象的だった。

――個人としては正しい判断が、全体として正しくない方向に行っていることは、現代の日本に多いように思います。


 僕が考えるに、子供が減っていることもそうだよね。今、子どもに関して、1人産んですごく大切に可愛がる風潮があるでしょう。それは子供を育てるという経済的負担から考えると、個人としてはすごく正しいことなんだけど、子供を産み育てるコストが上がって1人しか産めない。あるいは未来を憂いて子供をつくらないことが正しいと考える人もいて、ますます子どもが減っている。

 もっと気楽にたくさん産んだほうがいいと思うんだよね。そうすると競争も起きていい子は伸びる。

 ただ、同時に0点の子どもも許容する社会だといいよね。最近は無理やり平等にする風潮があるでしょう。それって不自然だと思うんですよ。人は平等じゃなくて、リーダー向きの子もいれば、サポートするのが得意な子もいる。リーダーはみんなの面倒を見るかわりに、メンバーはそれぞれの力を共通の目的のために使う。そういう関係性を経て「信頼」が生まれて、のぺーっとした平等主義ではなく、それぞれが自分の得意なものは何かを見つけていく。

 子どもがいっぱいいると、その辺のことが自然にできると思うんだよね。だから、やっぱり子どもはたくさんつくったほうがいいと思うよ。


「満員電車のトラブルを自分たちで解決できれば日本が変わる」 漫画家・しりあがり寿<インタビュー「3.11」第8回>(3/3ページ) | ニコニコニュース


 そう,誰しもがそう思っている。子どもは世の中にたくさん,いたほうがいい。子どもは未来であり,希望であり,がっかりだったり,なんで?だったりする。その子どもが少ないのは,結婚しないからだ,と言われて久しい。
 社会学者の筒井淳也氏が,それに答えている。

―晩婚化の原因を精神面の変化に求める言説もありますよね。いわゆる男子の「草食化」といった捉え方です。


筒井氏:若い人の意識が変わってきているのは、これは間違いないです。結婚しなくてもそれほど非難されないようにはなってきていますから。昔は「結婚しない」ということは、即「人生オワッタ」みたいな感じでした。自分の親の代とか見ていると非常に不思議じゃないですか。「なんでこの男と結婚したんだろ」みたいな、見た目や性格にこだわらない結婚をしていた(笑)。いまでは考えられないですけど。それは「結婚しない」よりは良かったからです。ヤサシクなかろうが、多少クサかろうが、どんな相手だろうが結婚するしかない。でも、いまは他の選択肢がありますから。そうした価値観の変化はあると思います。


晩婚化の原因は"いい男"が減ったから―筒井淳也氏の語る日本人が結婚しなくなった理由(BLOGOS編集部) - BLOGOS(ブロゴス)


確かに,いま,「お一人様」は社会のマジョリティとなっている。それほど,価値の転換が起きている。

―日本で安心して結婚できる社会をつくるには、どうすればよいでしょうか


筒井氏:同棲も含めてカップル形成がやりやすい社会というのは大事だと思います。婚外子差別など、制度を改めるべきところは早急に改め、他方で雇用の総量を増やし、ミスマッチを減らすことです。

(略)

 結婚できないこと、子どもを持ちたくても持てないことは、多様な問題の集積です。雇用の問題でもあり、意識の問題でもあり、そしてもちろん教育費の問題でもあるでしょう。当たり前といえば当たり前のことなのですが、わたしは「いくつかの問題の集積なんだ」ということを強調したいのです。

 もちろんデータ分析によって「この問題は<比較的>大きいだろう」というような方針を示すことは大事です。しかし万能薬はありません。しばしば「制度を変えないと個々の努力では社会は変わらない」とか、逆に「個々人が変えていく努力をしないと、制度ではものごとは変わらない」とか、そういう言い方がされることがあります。でも両方とも大事ですよね。


晩婚化の原因は"いい男"が減ったから―筒井淳也氏の語る日本人が結婚しなくなった理由(BLOGOS編集部) - BLOGOS(ブロゴス)


さまざまな問題が複合してのからみあっているものの,この「カップル形成がやりやすい社会」になっていくために,どうすりゃイイのか。若い連中同士,あまり干渉せず,放っておいたら勝手にくっつくんだろう?というのが,いまの時代のやり方だ。果たして,そうか。恋愛する能力をみんな持ち合わせているか。恋愛だけを根拠にリスクをとれるのか。本当は,誰彼となく世話を焼く機能の衰微が,この有様を生んでいるのではないか。
 それについて,印象的な言葉があったので引用する。
 桃山から江戸時代にかけての絵師,長谷川等伯。彼を主人公とした新聞小説の連載がオモシロいのだが,その一話に次のシーンがある。息子の久蔵が長旅に立つ。それを見送る等伯と妻の清子。別れ際,清子が久蔵に言う。

「それから早くお嫁さんをもらいなさい。ご迷惑でなければ,仲人を頼んでいい人をみつけておきます」
「おい,こんな時に無理を言うな」
 迷惑に決まっていると等伯は思ったが,久蔵は以外にもにこりと笑って承知した。
「お願いします。母上のお見立てなら間違いはないでしょうから」


等伯」 安部龍太郎 日本経済新聞 2012年(平成24年)3月13日


結婚する側も,先の世代を信用してこの久蔵のように「お願いします」と頭を下げられるかどうかってのが,ポイントのように思う。まあ,世代間不信が大きすぎるから,見立てが信用ならねえし,謙虚にもなれねえと言われそうだが。