2017年が終わろうとしている。今年をどう振り返るとよいのか,うすら曇っていたような年だな,とも思うし,まあまあだったんじゃないかとも思う。どうなんだろ。国政選挙があったんだぜ,と言われりゃ,「そうかも」とは思うはね。西暦と元号が,いよいよ,わかりづらくて困る。奇数−偶数は揃っていて,2年違うという理屈はわかっているのだが,えーっと末尾が9年の方はどっちで,7年の方はどっちだったっけ,となる。
さて,今年,読んだ本の話だ。いくつか,印象深い本はあったけど,あえて「今年,読んだ本」をあげると,「みかづき」(森 絵都著)かな,と思う。
どんな小説?「みんな,そうやって仕事に取り憑かれちまうんだ小説」。
主人公はギフトと形容してよい才能を持った男。そして,その才能を見い出し,自分自身の夢の実現の糧とするべく情熱を燃やし,やがてパートナーとなる女。そんな彼らの話と言えば,そう。才能は発揮する場所,情熱を傾ける場所が,産業として時流に乗り,隆盛を誇るようになっていく。その充実と言っていい渦中において,彼らは狂う。多忙が理由というよりも,仕事が仕事として,人間がやるもの,人間がやった成果ではなく,その人間が独立して,仕事という存在がその人を覆い尽し蝕む。すると,男は挫折し,女は一層,のめり込む。
昭和−平成の時代をちょうど切り取った小説と言えるだろう。ある産業が伸張する。だが,時代が転換する。その産業もカタチを変えながら時代に呼応する。そうした盛衰に,才能が飲み込まれる。才能が天真爛漫に開花していた微笑ましい様子は無くなる。そこにヒリヒリする。世の中というザラツキが表面をなぜる。同様に,怨念とも言える情熱のやり場が時代状況の変化によって,拠り所が怪しくなる。根を持たずに,どこかに吹き飛んでいってしまう危うさを感じずにはいられない。そこが寂しい。
妙な軽さを伴う時代になって,男も女も「成功」を手にしている。だが,もの悲しい。この主人公も,パートナーも仕事に生きたのか。「成功」という場所から見れば,そうだろう。その「成功」とは自らつかみ取ったモノか。時代の潮流に乗って,たまたま得たポジションだったのではないか,艱難辛苦,刻苦勉励はもちろん,あった。重大な決断もしたことだろう。しかし,人口ボーナスによる上げ潮と才能という運が与えてくれた「成功」だったと言えちゃうんじゃないか。そうすると,時代状況によってモクモクと成長する仕事そのものが,彼らをつかって大きくなった。彼らは仕事に使われたんじゃないか。
振り返ると,仕事をしたのは自分だったのか。仕事が自分をつかったのか。主体はどっちだったのか。その正体は一体…。そうした上り坂の時代を,歴史として乾いた地点から見返すと,どうしても行き当たるもの悲しさが,この小説全体を覆う。ああ,そうそう「カオナシ」の存在がもの悲しかったように
- 作者: 森絵都
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/09/05
- メディア: 単行本
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