読書感想文「志ん生の食卓」美濃部 美津子 (著)

 昭和のメシである。なので,大したものは出てこない。当たり前だ。当時はそんなものだったのだ。ヒト・モノ・カネが大移動することが当然になったのが,1985年だろうか。プラザ合意の年だ。円高になり,人が海外に出かけるようになり,モノはイトーヨーカ堂ダイエー,ニチイが日本中に動かすようになった。昭和の終わりの風景だ。なので,昭和の盛りである昭和30〜40年代の食卓なんてものは決して豊かじゃない。ただね,気持ちいいわけよ。何がって,表紙や目次の後の写真ページが。志ん生師が高僧のようでもあり,人間性の一類型のようでもある。談志師が「落語は業の肯定」と言ったが,「業を抱えた人間」をカタチにして「こういうもんだろ?」と神様が見せてくれた像が志ん生師であると思えてくる。
 メシは薀蓄か,能書きか。メシはメシだよ。おマンマだよ。そんなセリフが志ん生師の口調で聞こえてくる。そうそう,この著者は大河ドラマ「いだてん」の小泉今日子が演じる志ん生師の長女。脳内再生はキョンキョンである。


志ん生の食卓 (新潮文庫)

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