読書感想文「千利休 切腹と晩年の真実 (朝日新書)」中村 修也 (著)

 困った本なのだ。いや,この本で困ったことになっているのだ。おそらく,中村先生の指摘は正しい。利休は切腹してない。利休は侘び茶を生んでない。利休は待庵を作っていない。おいおい!とツッコミが入るわね。でも,実は茶道界では,まぁそうだよね,と受け止める。何せ,南方録は偽書,江戸時代の創作と常識となっているので,史実であると扱っちゃあいない。
 「お茶の総合プロデューサー・利休」としてしまい,アレも利休,コレも利休と伝説化したが故に,引っ込みがつかなくなっているのだ。本当のことを言うと困る,というアレだ。昭和から平成にかけて,結果として嘘に加担してきたじーさん達もあと10〜15年単位でいなくなる頃,中村先生の指摘は正史となるだろう。これから,そうした訂正の時間を眺められるかと思うと楽しみだ。
 そして,九州に流れた利休について,古文書や資料が発掘されるだろう。また,「利休遺偈」はいつ書かれたものなのか?利休が書いたのか?追放された利休の家族は一家離散状態だったのか?「少庵召出状」をどう扱えばいいのか?などなど,数々の伝説を検証してもらいたい。そうなったとき,表千家でいえば,7代の如心斎がさらにクローズアップされることになるのだろう。
 そうそう古田織部を描いたコミック「へうげもの」のラストシーンは,中村先生の説の影響だろう。


千利休 切腹と晩年の真実 (朝日新書)

千利休 切腹と晩年の真実 (朝日新書)