読書感想文「1時間でわかるアイヌの文化と歴史」瀬川 拓郎 (監修)

 歴史学や考古学からの研究が進み,一般の興味関心も広がっているアイヌについて満遍なく最新の知見がわかる一冊。
 時代や場所によっていろんなアイヌがいた。もちろん,悪人も権力者もいた。アイヌとは決して一様ではないことが共有されていなかったのは,その多様性が知られていなかったからだ。アイヌ文化を辺境の民の文化と見るのは,もはや偏りが過ぎている。日本の歴史学が首都の位置で時代区分をすることが典型なように,首都を離れた場所で記録が少ないために広く知られていなかっただけだ。
 海の民や百姓が,実は様々な浜や港を結び,土地の権力者を離れて,経済を作っていた歴史は,日本国内という狭い範囲ではなくアジアン・グローバルだったことと同様に,アイヌも大陸やサハリン,千島列島を結んでいた歴史を横糸としながら学んでいく,そうした複眼的な視点を取り入れていく一助にもなるだろう。神話と苦難の歴史だけがアイヌではないのだ。


カラー版 1時間でわかるアイヌの文化と歴史 (宝島社新書)

カラー版 1時間でわかるアイヌの文化と歴史 (宝島社新書)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/06/10
  • メディア: 新書