近世サハリン史である。ニヴフ,ウィルタ,アイヌ。アイヌはすっかり定着した言葉になったが,見慣れぬ単語が頻出する。しかも戦争がからみつき,時間,場所が複雑になる。しかも,極東情勢だけにとどまらず,ヨーロッパにもつながり,時代が進んでいく。
テーマの一つは,滅びゆく民。運命づけられたようにのしかかるこの言葉は,同化を押しつける側だけでなく,いくばくかの疑問を挟みながらも,自分たちの中からも発せられる。「いなくなる」とは,人口がゼロになることだけを意味しない。「自分たち」自身を為さしめていたものが途絶えるということだ。生活様式を失ってしまえば,「自分たち」ではなく別な何者かだ。ただ,そうやって各個人は生きてきたんだ,と思う。
もう一つは,教育だ。ロシアは領土を広げていった先で住民の子どもたちに向けて学校を建てる,とは司馬遼太郎が,中国と比べて語っていたことだが,これを再確認させられる。
私自身,亡くなった祖母がサハリン引き揚げ者である。この小説も地続きの物語である。そして,「ゴールデンカムイ」とともに読まれることを期待している。
