読書感想文「まずはこれ食べて」原田 ひ香 (著)

 21世紀現在の不幸を描く力を持つ,希有な作家-原田ひ香をそう呼びたい。
 2000年を過ぎて20年が経つ。このミレニアム以降,当たり前の日常を語る土台が共有されなくなり,その一方で,あふれかえる情報は,見せびらかしや成功の対価をひけらかす上っ面でしかなく,かえって互いが見えなくなった。そうした現在の「世間」を手触りごと映し出す作品を発表し続けるのが,原田ひ香だ。
 食べものや食事を前面に出してくる,これがイチイチ美味そうで困る。あー,いいな,美味そうだな,となる。でも,これは作品世界に陥れ,そう簡単に逃さないトラップなのだ。スタートアップした会社が軌道に乗り,社食やまかないを用意し始める,まるでNHK「サラメシ」に出てきそうな好事例の一つ一つが人物を浮かび上がらせるための伏線である。
 貧乏,差別,虐待などが突出した時にだけ,センセーショナルな話題となり,普段は閉じた蓋の裏側に潜むーそんな社会に僕らは生きている。恐ろしきは原田ひ香の筆力だ。宮部みゆきを読んで恐怖したあの感覚ではないか。
 「まずは読んでみて」。


まずはこれ食べて

まずはこれ食べて

  • 作者:原田 ひ香
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)