読書感想文「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」大木 毅 (著)

 新書のヒット作である。第2次世界大戦の最大の戦死者を出した一連の戦闘・独ソ戦である。しかしながら,これまで全容をわかりやすくコンパクトにまとめた本は無かった。第2次世界大戦は,日本人にとっては日中戦争であり,南洋戦線であり,太平洋戦争であり,本土決戦であったため,ヨーロッパ戦線は彼我の話しである。マニア以外にとっては,どうしても縁遠い話しなのだ。
 独ソ戦では,ヒトラースターリンという巨大すぎる固有名詞が,全てを捨象してしまいそうになるが,戦争とは組織が組織としての意思決定を,それを指示する一般からの後押しを持って実行されるのだ。一人の巨悪が全てを悪に染めたわけではない。トップが変わったから,いなくなったのだから,その国と社会は変わったのだというのは,虫が良すぎる。
 ドイツやソ連だって,その世間がなびいた自分たちに都合のいい,おっかしな観念が膨大な犠牲を生んだのだ。体制の統制・動員能力の向上があったとしても,当時のドイツやソ連を,バッカ馬鹿しいと言える健全さを持とうと誓わせてくれる一冊である。


独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

  • 作者:大木 毅
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 新書