読書感想文「21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった」広瀬和生 (著)

 談志の懸念を振り払い,21世紀前半の現在まで伝統芸能として「能のようになる」ことを阻止した落語について,この21世紀の歩みを客席側から記録した一冊である。
 広瀬和生は寄席や落語会へ足を運ぶ。しかも,学生時代から社会人になって以降も,お気に入りを中心にとにかく通う。平日も週末もである。プライベートや本業はどうなってるんだろう,と心配になるくらいに。
 地方から落語を見ていると,当然,寄席通いはできないからホール落語が接する機会となる。そうなると,大きなホールに大勢を集める立川流の人気落語家を聞く機会が増える。案外,立川四天王は地方でチケットを入手しやすいのだ。そうなると,広瀬さんが繰り返す,アンチ談志は東京の話で,地方だと立川流はイーブンどころかメインの存在だったりする。
 この本のメインは志ん朝と談志である。この君臨した二巨頭以降の時代を我々は生きている。広瀬さんには,花王名人劇場BSイレブン寄席,ミッドナイト寄席,今どき落語,談志が初代パーソナリティを務めるはずだったNHK演芸図鑑,談志がレギュラー出演したNHKラジオ第1「新・話しの泉」,そして大勢の落語家が惜しんだ浪曲師・国本武春の死にも触れてほしかった。
 落語好きの私自身,そうした話を,コロナ・ショック後の落語界とともに,広瀬さんと語りあう機会を夢見ている。