読書感想文「光秀公記」黒鉄 ヒロシ (著)

 地縁血縁。この濃さが本能寺の変,いや戦国社会を読み解くキーワードであると黒鉄ヒロシは説く。エンタメや俗説に踊らされないいぞ,最新研究を織り込むぞの強い意志を感じさせるが,そこは黒鉄ヒロシ。漫画であったとしても決して読み易いわけは無く,むしろ,紙面上の情報量の多さから読み進めることに難儀する。しかし,神罰・仏罰,怨霊など,見えないものやわからないものが周りに溢れていた頃だ。ページ内の分かり難さがかえって時代の空気を伝えている。
 何より,当時の一族郎党の気分がわからなければ,動機はわからないのだ。有力な四国説だって,明智家臣団の意思決定はどうなっているんだ,斎藤利三をそこまで慮ってやらなきゃいけないのは何故なんだ?という疑問は湧く。
 戦国時代とは,戦闘力,経済力,経営力つまり実力が基準となった,言わば応仁の乱以後の「戦後社会」であり,慣例慣習の前例だらけの旧秩序が,鉄砲やキリスト教というハイテクと新たな思想で揺らいだ社会だった。そして,そのことに日本人の多くがワクテカするのだ。


光秀公記

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