読書感想文「残念なメダリスト - チャンピオンに学ぶ人生勝利学・失敗学」山口 香 (著)

 おどろいた。まるで大河ドラマ「いだてん」の下敷きではないか。オリンピックと柔道家嘉納治五郎にまつわるエピソードが順を追って現れる。オリンピックという特別な場とは?選ばれたスポーツ選手という特殊な能力を持つ者とは?を考える好著だ。
 トップアスリートとは,やがて「トップアスリートであった人」になるということだ。山口香は,決して恵まれただけの競技人生ではなかった。むしろ逆風の中,扉を開けた人というべきだろう。その山口香が柔道家として,嘉納治五郎が伝えたかった本質が今の時代に欠けているとの指摘は,柔道界だけでなく教育界すべてが傾聴すべきだ。
 それにしても,山口香の人間としての強さだ。自分の人生を俯瞰し,まとわりつく「女性初」や「メダリスト」に決して溺れることなく,実力をもとに能力発揮する。もっと楽にチヤホヤされるだけの人生を歩む者がいる中で,彼女の存在は今後,ますます目を離せないと思うし,一連の東京オリンピックについての彼女の発言の重さをおもうのだ。