読書感想文「父という余分なもの: サルに探る文明の起源」山極 寿一 (著)

 類人猿の家族関係から,我々,人類を照射しつづける著者の一冊だ。「サル」は,ほのぼのしている存在か。ただただ,眺めていられる存在か。違うだろう。サルに見られる個体間のコミュニケーションとそれに伴ういざこざ。そして食。さらに性。こうした我々と地続きであり,それ故,まるで自分たちの性(さが)や質(たち)を否応なしに見せつけられて,「サル」そのものを見続けられるか。己の臓物を見るようではないか。
 そして,我々の形質は我々特有ではないとすると,我々を我々なさしめている要素を「サル」を通して,いつでも考え直すことができるということだ。類人猿によっては,母系であったり,父系であったり,ともすれば乱交乱姻であったり,「サル」も一様ではない。サルを規範とすることはできない。だからこそ,その多様さの中から我々とは,常に考え直すべきだろう。迷ったら,もう一度,自分の頭で考え直すための一冊となるだろう。