読書感想文「虫とゴリラ」養老 孟司 (著), 山極 寿一 (著)

 大局観を持って現代社会を語れる知性である養老孟司。その後継者にもっともふさわしいポジションにいる山極寿一。二人の対談本である。互いが語ることは幅広い。何せ,虫を趣味とする解剖学者と類人猿をテーマとするフィールドワーカーの組み合わせだ。双方もちネタは多い。
 フォッサマグナを境とする種の分断。毛繕いとコミュニケーション。言葉と情報と実体。成長における「離乳期」と「思春期スバート」。「意味づけ」の無意味などなど。
 そして,明治維新と,戦後期。日本人の精神世界に重大なインパクトを及ぼしたこの2つの大転換期を子どもとして過ごした人たちが世間の欺瞞に気づいたことがモノづくりに熱中させるキッカケになったのでは,という言説はとても興味深い。昨日までチョンマゲ二本差しの身分が平民になっちゃった家の子どもにとって,信じられるものはモノ。それを作る嘘をつかないテクノロジーでしかなく,明治維新に子どもだった北里柴三郎野口英世志賀潔豊田佐吉らと同様,戦中戦後を見てきた子どもたちがモノづくり日本の担い手となったという指摘である。
 いま,STAY HOMEさせられた子どもたちは,どう常識を疑い,どんな信じられるものを見つけ出すことになるのだろうか。



虫とゴリラ

虫とゴリラ