読書感想文「口福のレシピ」原田ひ香 (著)

 読後,語る語る。語りたくなるのだ。読んでいる最中に絵が浮かぶのだ。
 主人公・品川留希子の実家・品川家が経営する老舗料理学校「品川料理学園」のツートップである母と祖母。寺島しのぶ富司純子でどうか。いや,吉田羊と倍賞美津子でどうか。主人公・留希子が,母に呼び出され,フレンチのコースのランチに「お話があります」と呼び出され,「覚悟しておいた方がいい」と告げられる。独特の緊張感のあるシーン,重みのある女優さん二人が必要だ。学園の理事長として招聘された坂崎は,星野源柄本佑か。飄々としながら理屈っぽく話をする人をね。
 いま,という時代の切片を鮮やかに見せる原田ひ香の筆力には,つくづく感心する。主人公の仕事,同居人である友人の暮らしの描き方だ。だが,本作は,昭和初期のもう一つの時代を重ねながら主人公の存在の根源と背負うであろう家の歴史を読者は共有する。
 口福な食のシーンに心を持っていかれるにとどまらず,確実に小説世界に没入させてくれる一冊。オススメです。


口福のレシピ

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