読書感想文「たのしい知識――ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代」高橋 源一郎 (著)

 「我らがGTこと高橋源一郎」と呼んだのは評論家になる前,自動車雑誌「NAVI」編集部にいた武田徹である。GTは自動車雑誌にも寄稿していた。当時,武田徹は誌内でタケちゃんマンと呼ばれていたが本人含め,どうでもいい話だろう。
 さて,そのGTこと高橋源一郎が,教科書を書いた。目的は何か。世の中のことを知るためである。もとは文学探偵である。真相を明らかにするのが探偵の探偵たる所以なのだから,とことん,解き明かすのだ。文芸時評をやっている頃は,文学について語っていたのが,GTはなんと論壇時評にまで進出する。この世を,この世界について論ずるあらゆるテキストを相手にし出して以降,GTは止まらないのだ。
 天皇憲法を,世界中の憲法と並べ,何がどう特殊で特別なのか(全然フツーだった!),むしろ,その出自に由来する当時の世の中を辿ることで明らかにしてしまう。隣人・隣国を理解するための「言葉」を言葉そのものの存在から考え直す。そして,コロナである。
 江川卓の隣で競馬予想していたGTは,文学探偵であり続け,文学を教える先生になった。その先生を終えたにも関わらず,混乱するこの世界が必要とする教科書を自分で書いた。生徒である僕らは用意された教科書をただただ,手にとればいい。どう読むかは僕ら次第なのだ。