読書感想文「音楽の危機 《第九》が歌えなくなった日」岡田暁生 (著)

 合唱がもっともヤバい。長時間,ひとが集まり,お喋りするのもリスク。いま,ナマの音楽,舞台芸術は,これまでとは別の世界にいる,と言っていいだろう。
 不用不急−と呼ばれた芸術娯楽,まして音楽イベント,そもそも,じゃあ音楽って何なんだ?とこの機会に遡って考えた一冊である。
 音楽は演奏家,聴衆からなる。現代の我々にとって当然だが,これは当たり前じゃなかった。祭りや,宮殿に客として招待され,音楽がそこにあったのが,ハイドンベートーヴェンの時代に初めて「コンサート」なるものが生み出されたのだ。やがて,メディアが録音された音楽を届けるようになり,音楽がすみずみにまど行き渡る時代になり,掌に収まるまでになった。
 これから,音楽,とりわけライブはどうなるか。ひとが集まることそのものが,感染症疫学上の数値をあげてしまうのだから,無観客ライブ,少人数や客席を間引いての催行としかならない現在から,未来を見通すことは難しい。ただ,歴史から現在地を測り直す行為は,やがて様子が変わった際に,それぞれにとって立脚点となるだろう。