読書感想文「手の倫理」 伊藤 亜紗 (著)

 インターフェース論である。境界がある。自分と他者の境目である。その物理面での境界を知り得る「触覚」がテーマなのである。
 触覚が伝える情報量の多さとは,視覚とはフェーズが違う。温度,圧,面積,水分などなど。そして,それらが時間とともに絶えず変化し,そして,その接触面からこちら側の情報も伝えるとともに,重心や捻り,ねじりなど2次的な情報が伝わる。
 面白いのは,触覚を通じたやり取りとは,「押し合いへし合い」であるため,自我を貫き通すこととはならず,「受容」が生じ,相手とシンクロしたり,委ねたりすることになることだ。
 直の接触以外に,ロープ,棒,手拭い,スポーツ用具をつかって相手と繋がるなど,直接,間接を問わず,ソーシャル・ディスタンスは取るべき社会となった。「触れた」となれば,手を洗わなければならない。
 近現代は非接触に価値を置き,接触をより避ける方向に進んだ。接触の禁忌や接触してしまうリスクを避ける道徳,倫理をも説く一冊。さて,ページを「めくって」もらいたい。


手の倫理 (講談社選書メチエ)

手の倫理 (講談社選書メチエ)