読書感想文「アンと愛情」坂木司 (著)

 主人公・アンは成長したか。高校を出て3年。デパートにテナントとして出店する和菓子屋のアルバイトとして,ただオーダーの入った商品を詰めて会計するのではなく,商品としての和菓子を愛するが故に,客との間のコミュニケーションや商品知識を深めながら,店先に立つ和菓子探偵よろしくドンピシャの和菓子を探し出す。そんな話も3冊目。アンは相変わらず,自信なく怖気づきながら,変わってへんのかい!そんなことも言いたくなる。
 歴史と技法が詰め込まれた和菓子。そうした伝統の世界と,物販と集客の一典型であるデパ地下。高卒で正社員では無いアルバイトの自分を卑下するアン。そうした所在なさげな「自分」とキッチリと組み上がった「大人」な世間とのコントラストを「そうだよねー,そうだよねー」とページをめくる読者を思い浮かべるといいのだろう。
 徒手空拳で和菓子の世界という大海に向かい,ただただ自分の卑小さを感じているその時,「でも,あなたは成長し居場所があるのだよ」と,いい大人の読み手は伝えてあげたくなるのだ。


アンと愛情 和菓子のアン

アンと愛情 和菓子のアン