サンキュータツオとは,文章の人だ。
ラジオ番組にレギュラー出演し,漫才師として舞台に立つ。そして,「渋谷らくご」の主催者である。だが,彼がもっとも輝くのは文筆である。このエッセイでは,「渋谷らくご」の成り立ちから,どうしても高座に上がってもらわなくてはならない二人,柳家喜多八,立川左談次が中心である。
とにかく,この二人はカッコいいのだ。団体の幹部か,ノン。大勢の弟子がいるか,ノン。テレビ出演の常連か,ノン。満杯の寄席やホールをギャグで爆笑を取るか,ノン。違うのだ,この二人は面白く,佇まいが惹きつける。落語好きなら,堪らない二人だ。サンキュータツオは,この二人を「渋谷らくご」の中心に据える。
二人はガン死した。失ったものは忘れ去られてゆく。だが,こうして二人を文字に残したサンキュータツオの仕事によって,存在が残る。演芸という淡くその場,その瞬間を目撃した者だけの記憶になってしまうところだった芸を伝えるこの仕事に,落語ファンの一人として著者サンキュータツオに感謝したい。
- 作者:サンキュータツオ
- 発売日: 2020/06/26
- メディア: 単行本