読書感想文「同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか」鴻上尚史 (著),佐藤直樹 (著)

 気を遣える人,うまくやり過ごせる人,世渡りが上手い人,腰の低い人,人当たりのいい人ーそんな人は羨ましく,憧れたりする。本当はね。ただ,誰しも,そんな性格や精神面,コミュニケーション・スキルのトレーニングを受けているわけじゃ無いから,困難な状況が続くと,感情が溢れる。怒りや悪態が表面に出る。饅頭を押し潰すと餡が飛び出てくるように。
 だが,結局のところ,1997年の拓銀山一證券の破綻,2008年のリーマンショックの経済のクラッシュにより,人心が荒廃したことで,遣り場のない鬱積や不満が「ブツけてもよさそうな相手」に投げつけることが許されちゃう「世間」に当たり散らすことでカタルシスを得た者が,連鎖を産んでいるのだ。この間,天災もあった。だが,経済事件なら,人や社会が介入し,そこで働く人間を犠牲にせず収拾させる可能性はあった。経済的に失敗した人を自業自得だ,と指差す傲慢な新自由主義の中で「勝ち組」の影に隠れて小賢しいマネをするような連中の仲間入りをする必要など無かったのだ。
 個人として,マトモな判断をし当然の行動をするためには,阿(おもね)ったり,媚へつらうことなく,独立した一個の人間としての尊厳を保てるだけの経済基盤がその人にあることだ。危機にあるのは,経済社会が蝕まれ,そこですり減った人的資源のストレスによって「世間」において「同調圧力」を高めていることだ。
 この本では,盛んに日本社会の特性を書き立てるが,そうだろうか。このコロナ禍において,さらに病んでいく日本社会だが,徹底的にカネをばら撒いてみよ。「世間」や「同調圧力」の類いの問題は,実はカネによって雲散霧消すると思うがどうだろう。
 そして,心理的安全性がチームビルディングの上で求められているのは,日本だけではないことも思い起こしてもいいはずだ。