読書感想文「旅する練習」乗代雄介 (著)

 ロードムービーという映画ジャンルがある。果たして主人公が主役なのか,それとも移動そのものが主であって,配役としての登場人物は添え物であるか。旅とは,旅するとは何だろうと映像の先に考えさせられる。
 そんな映像を見るように,小説世界を楽しんだ。コロコロと弾んだ声をあげる姪と小説家の主人公だ。サッカーボールと堤防を歩いて向かう。まるでバカげた旅だ。楽しいだろうな。アイテムは,真言(しんごん)とオムライス,そしてコンビニおにぎりだ。
 我々は,禁足令下にある。旅って何だっけ?どうするんだっけ?と言いたくなるほどに,感染リスクを避けた行動をしている。感染リスクを恐れなくてよくなったとき,溢れる出すように旅行商品を買い求めることになるのだろうか。
 何気ない,他所から見ればバカバカしい移動がこんなにも素敵で掛け替えのないものなんだ,そしてそれが人生をも動かすのだ,と気付かされる。こんなにもベーシックな旅でいいんだ。
 でもね,最後に「ズルいな,これは。あー,そりゃないよ」と切なくなったことは付け加えておく。


旅する練習

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