読書感想文「今、田村明を読む: 田村明著作選集」鈴木 伸治 (編集)

 「地方分権」が旗印になって盛り上がっていた90〜00年代にかけて,地方自治体の職員で田村明を知らずにまちづくりを口にする人間はモグリであった。原典となる田村明の著作は読んでいて当然である。あの頃,田村明=まちづくりである。
 その田村の単行本として出版されなかった論考を綴った選集であると編者は言うが,謙遜である。「序章・田村明とその時代」と「あとがき」は田村明研究にとって,田村を支えた精神的バックボーンを知る不可欠な資料であると同時に,田村を通じて地方の側から時代を知る史料でもある。さらに各章ごとの「解題」は単なる説明ではなく,やや時代がついた書かれた当時と現代とを結びための手引きである。
 「総合化」,「都市プランナー」,「企画調整」,「プロジェクト主義」,「都市デザイン(アーバンデザイン)」,「市民参加」,「都市経営」など,地方自治地方分権を語る上で田村が一般化させた言葉が多い。
 ナマの田村明を見た聞いた一人として,こうした本の存在を知らしめないわけには行かない。