読書感想文「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある」岡 檀 (著)

 カラッと明るい読後感を味わえる一冊である。
 岡が研究対象のフィールドとする徳島県海部町の人々は,次のように評される。ー 世事に通じている。機を見るに敏である。合理的に判断する。損得勘定が早い。頃合いを知っている。深入りしない。愛嬌がある。他者に対して興味津々で人間観察に長けている。弱音を吐かせるとリスク管理術を持つ。飄々として抜け目がない。
 まるで,都会人の気質ではないか。野暮な田舎者のそれではない。
 なぜ,そんな人たちばかりなのか。海部町は江戸初期に山林需要に応えることで急に発達。大勢の人足,職人,商人が流れ込んだ地縁血縁の薄い移住者たちが皆一斉にゼロからコミニュティをつくって来たからだという。
 人や世間をよく観察する。そこで見えてくる人間の「性(さが)」や「業(ごう)」だ。煩悩まみれのダメさをわかった上で,人の心が動くような仕掛けを施す。それができない者は野暮なのだ。落語を聞け!という話しである。
 そして,このコロナ禍で岡の研究がどう進んだのか,気になってくるのだ。