読書感想文「黒田官兵衛―知と情の軍師」童門 冬二 (著)

 官兵衛は軍師であった。だが,軍師であり続けたわけではない。そして,秀吉にとって軍師として重用はされたが,決して一切を委ねられたわけではない。
 配下の者ではあったが,それはスタッフとして立場であって,ラインを統べる立場ではなかったのだ,と童門冬二は言う。官兵衛はライン長を志向した。武将としての一国一城の主だ。黒田家臣団も永続させなければならない。
 官兵衛のエピソードの多さと栄達と評判が,3英傑に対して「軍師・官兵衛」と呼ばせた。そもそも,知略・軍略において秀吉が官兵衛を上回っていたのは間違いなく,果たして軍師というポジションを秀吉が必要としていたかは怪しい。それは後の時代の者が孔明に倣い呼んだに過ぎないのだろう。
 軍師・参謀とは何か,その答えはおそらく無い。「誠実,堅実,合理的で注意深く,根はまじめ,私利私欲なく,知性についても見識を持ち努力していた」という人柄がただただ,運を呼び寄せ地位を築いたと見るべきなのだろう。