読書感想文「語り芸パースペクティブ: かたる・はなす・よむ・うなる」玉川奈々福 (著, 編集)

 編集者・玉川奈々福による,現在に伝わる芸についてのバラエティ・パックである。
 なので,決して一般向けではないし,系譜系統についての定番となる歴史がこれでわかる!というものでもない。玉川奈々福のいるポジションから見える風景をゲストに教えてもらう形をとりながら,我々に示している。
 なので,視座は安定しないし,知識や興味も十分ではない。だが,これが我が国における「語り芸」の現状ではないだろうか。芸人が芸論を著述することや生い立ちや人生を語ることはあっても,ジャンルも多く,メディアの発達,その芸の流行や栄枯盛衰など,あまりにもとっちらかってしまっていて,研究者もメディアの中の人たちもフォローしきれていないのだ。
 だからこそ,まずはとりあえず,編集者・玉川奈々福の網を掛けてみましたよ,という姿勢を評価したい。映画監督・篠田正浩の日本における物語りの宿命の話,和田尚久の落語時空論,いとうせいこうの韻謡論など,引き込まれる話も多かった。
 行商人の売り声や市場での呼び声なども含め,録音できる時代だからこそ研究対象として,やっと成立する時代になった。これも日本語である。もっと研究が広がっていい。