読書感想文「奇跡の経済教室【基礎知識編】・【戦略編】」 中野 剛志 (著)

 財政健全化をお題目とする「認識共同体」とは何かを明かす謎解きである。
 仲間内の価値観や認識での正義を信じて疑わず,自己責任とルサンチマンを撒き散らし,これまで信奉してきた「国の財政危機」を唱え続けるエリートとやらの群れが正体だ。
 歪んでいるのだ。国民に我慢させろ。甘やかすな。自助努力が足りないんだ。もっと厳しくしなくちゃ。ワガママは許されない。だから,その切っ先は政治家にも向く。国民への負担増を強いるための説得ができなくちゃあいけない。政治家の力量が問われる,政治家のあるべき姿だだと迫る。
 無茶苦茶なのだが,彼らは都合が悪くなると「いいえ,元々は反・新自由主義でしたよ。反グローバル主義ですよ」と言い出すだろう。体制の側にいるとはそういうことだ。さまざまな力の加減で物事が動く時代の転換点である。主流派経済学もMMTを包含した学問体系のふりをすることだろう。
 先に本書を読み,世の情勢とはこうして変わるのかと呆れながら眺めるのが正しい態度だろう。仮にこの本のとおりにすっかり政策が変わっても,警鐘を鳴らし世を憂いた本があったという証拠になるし世の中を冷静に見るための上下二冊。教室には早めに入ろう。