読書感想文「きれはし」ヒコロヒー (著)

 まだ何者かになる前の坂道の途中の人が書き記した「きれはし」である。
 なので,視点はブレる。迷い,戸惑う。悩んでいる。これでいいのか。違うやり方があるんじゃなかろうか。方向はある。でも,スタイルは?,ポジションは?そして芸人としての需要とは。
 ザリザリとした表面に砂糖をまぶしたような文章は,日常からブツブツと湧き上がる感情のそれぞれを表現しており,山登りの際に触れる岩肌のようでもあり,それは今,悪戦苦闘して足掻いている人たちにとって共感を呼ぶことになるだろう。
 やがて,大きな手柄を成し,盤石な基盤を持つことになってしまったあと,本人にとっては振り返りすらしない一冊になるかもしれないが,そうした本を本人が書いたことを知っているのは読書をする人間にとっての愉悦だったりする。
 世間への違和感を言ったくれる存在は,いつも貴重だ。だからこそ,決して整ってはいない気持ちをそのまま,むず痒いまま読むことも大切なのだ。