ルポライター・井上ひさしである。
間違いなくボローニャへ行ってみたいと思わせる井上の筆を称えるべきなのだろうが,イタリアの地方都市を動かす気質やポリシーの魅力を存分に味合わせてくれる。街のエンジンである人々の気概と行動,そして街の歴史を残し伝承していくことを誇り高く語る様子が生き生きと伝わる。
それにしても,後半,描かれる統一ユーロ後,すなわち経済のグローバル化に伴う国内経済の疲弊と社会の分断によってボロボロになっていく地方都市の惨状はベルルスコーニのせいにしてしまうのは容易いが,新自由主義の帰結であり本書の中でも井上が「日本と一緒だ」と繰り返し書いていることは,2020年代の今,さらに噛みしめるに値する。
井上の旅行記や見聞録がこんなに面白いのなら,彼の信条に叶う土地を巡らせ書かせる「街道を行く」のような企画がもっとあったのではないか。座付き作家とは言え,拘束させずに中南米なども含めカトリック教徒の多い土地を歩かせていたなら,また違う創作が生まれていたのではないか。所々に現れる井上ユリがこれを書かせているようで面白いし,やはり少し惜しい。