読書感想文「思いがけず利他」中島岳志 (著)

 意思や欲ではなく,どうしようもなく手が動き体を動き,モノを言いだしてしまう情動。これこそ利他の根っ子である。
 大きな厄災の後,我々は我が身を顧みる。大きな災害,経済危機,そしてパンデミック。みんなが皆んな,いま,薄々気づきながらやっているのだ。これを機に考えを改めないといかんと思ってこれまでと少し違うことをやり始めているのだ。だからこそ,いま,他人のためになることをせっせとしていることの構造を解いたこの本に,意味がある。
 以前なら「世のため人のため」と呼んでいた「他人のために身を挺すること」への正当性を与えてくれるこの本は,新自由主義の終焉とともに寄る方なく孤児のような我々に,「つい」,「ふと」,「たまさか」,「おもいがけず」,「どうしようもなく」他人のために動いちゃってもイイのだ,と言ってくれている。
 善行とは胡散臭く,怪しく,訝しい。だから,こんなこと,やっちゃってイイの?と躊躇するのは自然だし,何をカギとし中心に置くと良いのかがわかる。案外,堂々と生きるためのガイド本かもしれない。
 そうそう,最晩年の立川談志ファンにもオススメだったりする。