読書感想文「新人弁護士カエデ、行政法に挑む」大島 義則 (著)

 ストーリー仕立ての紛争処理の実務をテーマとした行政法理解本である。
 行政法を学ぶとは数多(あまた)ある個別行政法を網羅することではなく,行政作用法や行政救済法を学ぶことを意味するわけで,行政手続法,行政不服審査法行政事件訴訟法の3法を理解し,これらをツールとして使えるようになるということだ。
 では,この本,主人公が新人弁護士のとおり,法曹家を目指すかどうか逡巡して,その入り口に立つような者が読者対象なのだろうか。実はそうではない,と思いたい。役所がおカミとして楯突いちゃいけない存在などと古臭い認識ではなく,市民のための行政行為発出セクターとして機能してもらうために,市民の側に行政紛争に至らなくとも,事前行政手続や予防,ルールメイキングなど,みんなにとって必要なことや当たり前なことを,役人任せにしないよう知識や知恵が必要なのだ。
 記述上,必要な法律用語があるせいで,文章はどうしても硬く漢字が多くなる。だが,この分野はブルー・オーシャンであることを示した1冊という意義は大きい。そもそも,法律が市民にとってわかりづらいのであれば,それはその法律が悪いのだ。道具は磨く必要がある。
 まずはこの本を始めに,派生する次の企画とその書き手に期待しよう。