読書感想文「名著の話 僕とカフカのひきこもり」伊集院 光 (著)

 本を読むと,その本の話しを誰かとしたくなる。あまり余って読書会なんてものをやりだす。
 あのテレビ番組「100分de名著」のアフタートークである。伊集院光が,どうしても勢いづいて,案内役の3人と語り出してしまったのだ。テレビ番組では,まっさらな人である伊集院が疑問や質問を繰り出し,その本の意義や役割,その本が問いかけようとしていることに,徐々に引き込まれていく様が番組の見所になっている。
 この本は違う。伊集院は読んだ後の人だ。一度読んだことで持ち得た視点,印象的な箇所,自分自身に引き寄せて湧いて来た意見,それらを案内役にぶつけて行く。なので,この本はブックガイドではない。一つの本のガイド役がいて,彼がその本の魅力を語るとき,そのことが未読者をこれほど豊かに紹介された本について語り出させるのだ,と証明してみせたということだ。ついには,その語りをまた,本にしてしまったのだ。本について語ることをさらに語ることを書いてしまったわけだ。
 本好きの沼にずぶずぶとハマるとはこういうことだ。