読書感想文「古本食堂」原田 ひ香 (著)

 関取にぶん投げられる気分と言えば近いだろうか。回しを取られて空中に浮かぶ上がって振り回されるように物語の渦へ持っていかれる感じ。それが原田ひ香お馴染みの読後感だ。
 現在の世の中のいるであろう市井の人々と,いまこの時点のトピックスを盛り込み,物語をカタチにしていく力量は彼女ならではだ。
 今回,家族や職場,友人の人間関係を,食という織糸で結ぶだけでなく,さまざまな古書,名著も物語を編み上げる素材に使って来た。食の求道者だと思っていたら,本のハンターでもあった。
 一人称で本を語るのはとても楽しい。言葉の粒に本への愛情が乗るからだ。だが,人がこの本をこう言ってた,というのは案外,ノってきづらいものなのだけど,それをスパイスのように使って来た。読者として,当然,原田がこの本で紹介する本をすべて読んでいるわけじゃない。だが,一時,熱心に読んだ小林カツ代の項など,とてもよくわかるのだ。なぜ,ここで原田が小林カツ代を使うのか,そして小林カツ代の偉大さも。
 神保町界隈の食の話しと読んでもイイだろう。だが,原田が本について,本への愛について語りたかった一冊だ。