読書感想文「裸の大地 第一部 狩りと漂泊 (裸の大地 第 1部)」角幡 唯介 (著)

 ヤバイ人の話だ。
 旅そのものの定義に内在する「戻る」という行為に,計画性や時間制約を嗅ぎ取り,さらに不自由さも一々感じちゃって,自身の感覚と自活による移動こそ追求対象だとして,ついにやっちゃう人が主人公なのだ。そんな理屈っぽいこと考えたとして,仮に出かけても「やっぱ帰ろう」と思うよ,フツー。だけど,この人はわかんないのだ。たとえば,自由と自由落下の違いが。いやいやいや,ダメだろ,それ。
 狩猟を糧とした生活の実践とは,野生の掟の側に重心を置くということだ。太陽の動きは規則的だとしても,獲物の動きは天然なので,ヒトの思考の範囲外だ。でも,そうした外部規範の中に身を置くことが自由なのだ,と。ホントか,それ。ぜんっぜん,わっかんないんだが。
 いま,アウトドアがブームの中,キャンプの帰り支度をする人たちにとって「なんで,帰んなきゃなんねーんだろ」と口を突いたところで,その続きを考えもしない99.999%の人たちの代わりに答えを出そうするヤバイ人の存在が支持されているということなのかもしれないし,家や社会生活ではなく野生に帰ろうとするフツフツとした感性が世の中に漂っているのかもしれない。ヤバイのはこっち側なのかもしれない。