読書感想文「人権と国家: 理念の力と国際政治の現実」筒井 清輝 (著)

 国際人権規範について話しだ。いや,テーマとされるのは,なぜ,国家の支配者は,やがて自分の首が絞まるような国際人権に賛同し,批准した条約の遵守義務と向き合わざるを得なくなっちゃうような「空虚な約束のパラドックス」に陥ってしまうのか,だ。
 それは,冷戦期を通じて,相手を批判する際,調子に乗って,つい立派なこと言ってしまい,いいカッコしいな態度を取ってしまうからだ。批判のためのセリフだから,やがて,コッチに降りかかってくることなんて考えない。誰もが賛同を得るような,相手を黙らせるようなカッコいいこと言いたい。しかし,そうした国際社会での物言いが国内問題に向かう時,刃になって襲ってくる。
 日本社会は,これから国際人権規範とより一層,向き合うこととなる。漫然と続いてきた因習や慣習,ローカルルールが,なぜ必要なのかを国際社会で理解が得られるように説明できなくてはならない。世間という同調圧力の高いムラ社会に閉じているのであれば,異議申し立ては無視し排除すればよかった。だが,風穴が空いてしまった以上,これからは「人権力」で世界をリードすることを目標とせざるを得ない。世界の隅っこの極東で人権を叫ぶことになるのではないだろうか。