読書感想文「それを,真の名で呼ぶならば: 危機の時代と言葉の力」レベッカ ソルニット (著), 渡辺 由佳里 (翻訳)

 レベッカは勇敢である。
 そして,彼女は冷静かつ正確に問題をとらえ,その一点に怒りを持ち続けている。その矛先は,こんな状況になってしまったアメリカについてである。こんな状況とは何か。嘘,出鱈目,インチキ,嘲笑,誤魔化しがまかり通る正義なき社会についてだ。
 みんな,やるせなさを感じてはいる。アメリカ人だって空気を読むし,同調圧力は高いのだ。アメリカン・マッチョだって流される。雰囲気で好き勝手に都合良くモノを言うのだ。若い頃のイメージのまま,虫のいいことを語りたいのだ。だって,その方が気分がイイのだ。本当のことは触れたくはないのだ。重い現実を直視したくないのだ。だからこそ,耳の痛いことを本気で言うレベッカの価値があるのだ。
 いま,日本にここまで書ける者はいるだろうか,と問いかけたい。議論すべき左翼としてレベッカという存在を歓迎したい。煽動なき冷静な言葉で世の中を語るとは,こういうことだ。