読書感想文「壁とともに生きる: わたしと「安部公房」」ヤマザキマリ (著)

 ヤマザキマリは,ずっと安部公房を推している。
 エッセイでも,TV番組でもだ。彼女にとって羅針盤となった安部公房の小説群は,彼女の人生の苦難を相対化してみせ,そして人間というものの存在について彼女の全身に電気が走るようにして焼きつけた。
 そんなヤマザキマリが,今この時代だからこそ,安部公房の作品を熱く熱く語るこのブックガイドは,すでに安部公房の読書体験があって読むのもいいだろうし,この本で安部公房に興味が湧いて,手に取ってみるのも正解だろう。
 だが,暑苦しいまでのこのブックガイドを読むには,人生経験が必要だ。恥ずかしい,つらい,悔しい,みっともない,情けない……。そんな感情を噛み締め,世の中と向き合い,自分自身に嫌な出来事が降りかかってきて生じた思いがあってこそ,ウンウン,わかるよ,と読み進めていけることになる。どうもこうも,抗いようがない理不尽なことが起き,どんな負けっぷりをするか,どんな生き残り方をするか。
 個の存在の絶対性と社会の脆さを,すっかり転換してしまったこの時代を再認識するために,安部公房を読もうと勧めるこのブックガイドはきっと役に立つだろう。