読書感想文「私と街たち(ほぼ自伝)」吉本ばなな (著)

 人生下り坂最高!(火野正平)の手前,まだまだ悩める吉本ばななである。
 よしゃあいいのに,人生のあれやこれやを思い出す。そして,悔いたり寂しがったりする。かつて住んだそれぞれの場所でのヒリヒリする思い出やゾワゾワする落ち着かない危なかっしいアッチ系のエピソードも添えられつつも,人との関わりが人生だったりなんだな,と確認させられる。場所を通して振り返るのはきっかけであって,その思い出すこととは家族や友人,他人さんとの関わりのことだ。
 元気まみれの型破りな無頼派の天才のイメージがあるが,その実は不安な人だ。そして,巨人・吉本隆明の没10年の時間が,次女ばななにこの思い出エッセイを書かせて毒を抜いているのだろう。
 ファッション誌とともに「キッチン」や「TUGUMI」を読んだ人たちも,新潮文庫の100冊の夏休みブックフェアを通じてそれらを読んだ人たちも,吉本ばななの現在地を知る一冊であるし,大きなお世話だがここからが面白い吉本ばなな!と勝手に期待してしまう読後感となるはずだ。