読書感想文「布武の果て」上田 秀人 (著)

 組合,寄合スペクタクルである。
 互助組織,互恵団体は言うに及ばず,そのムラの中で権力が集中せず,納得と道理でモノゴトが決まっていくまで議を尽くす場は,日本社会の典型であり生き残りの知恵であった。そんな組合,寄合での話しだ。
 登場するのは,戦国の世の堺衆。サバイバルに長けた貿易経済特区である。大事なのは,情報だ。しかも,世事だけでは事足りず,必要なのは,権力者がどう判断するかの心理分析だ。現時点での動勢とその動勢をどう読むかと仮定した上で,商いに必要な売買を見定める。取り入るだけではダメなのだ。読んで渡り合えなくてはいけない。
 やがて,交換価値と成長を,経済と統治の原動力とする秀吉の治世となり,堺はまだまだ後世になっても栄えるが,これは優秀な経済ブレーンあってのことだ。有限な土地発想しかできない侍の連中の世になってしまえば,途端に苦しくなる。
 マーチャンダイジングの話でもあり,謀議・密議の話でもある。世の中を動かすのは,どんな「場」なのか。そして「こっそり」が公になって力を持つとき,思わぬことが進んでいたりする。
 さて,あとは読んでのお楽しみだ。私は続編を待つことにする。