読書感想文「宴のあと」三島 由紀夫 (著)

 世間知らずの男の話である。
 こんな可愛らしさとさえ言えそうな生真面目を背負っているピューリタン的世間知らずが,外務大臣を務めていたなんて信じられるだろうか。戯画的だ。お人好しかも知れないが融通の効かないバカでさえある。つまるところ,甘やかされて生きてこられた男がいたのだ。まったく,どこをどう見て生きてきたのだろうか。
 一方の女主人は対極だ。生の象徴だ。リアリスティックな彼女の存在は温度と湿度がある。泥を触ったときのぬめりや重さが彼女にはある。匂いがある。現実がある。戦うことを知っているのだ。勝つことが全てではないが,勝てなくても負けないために戦うことが生きるということだ。
 だからこそ,身なりを整えさせようとする女を虚飾と呼ぶか,印象は大事だと説くか。そして,対比される男の綻びとくたびれた身なりが,必ずしも誠実を象徴するのかとの疑問も湧くはずだ。
 誰も死なず,暴力もない。財産を身包み剥がされることや貧困もないし,精神を病んで自殺する者も出てこない。出会いと選挙があっただけの話しだ。いや,朴訥なおっちょこちょいな男の話なのかも知れない。