読書感想文「向田邦子の本棚」向田邦子 (著)

 意思と才能がヒトのかたちをして立っている。いつも向田邦子の写真を見ると思う。黒目の力が強いのだ。そんな彼女の文章が愛されるのは,隅々まで神経が通っているからだ。揺るがせにせず,その言葉の置かれる場所やタイミングに意味と意図がある。そのことがビンビンと伝わるから愛読者にはたまらないのだ。だが,文字起こしされただけの対談となると、紙面がくすむ。相槌と間がわからないので,彼女の思考のシャープさが鈍ってみえるし,案外と寡黙だったりする。商品としての作品とリアルの彼女の違いではあるのだろう。
 没後の向田にまつわるものを集めた一冊である本書は,そんな彼女のファンブックだ。あのカッコいい向田さんの本棚に並ぶ本たちは,きっと素敵に違いない。そんな編集意図なのだ。紹介されるのは,確かに身の回りに置くものとして意図や意味があるものばかりだ。向田邦子をデザインしていると言ってもいい。その一方で,向田邦子のフォロワーたちはどう生きたのだろう。どう世の中をアップデートしたのだろう。どれほど,カッコいい姉さんたちが増えただろう。
 向田は1929年生まれ。あと7年で生誕100年。どんな企画が催され,それは,どれほど時代に問いかけてくるのだろう。