読書感想文「フィンランド 幸せのメソッド」堀内 都喜子 (著)

 社会生活を営む人間とは,ヒトであり,哺乳類である。フィンランドは,その哺乳類として人類が生殖や成長に伴って必要とされるケアや教育を,社会としてどうサポートするかにフォーカスしている。われわれは,必ず乳児期や幼児期を過ごす。哺乳類には,必然であり,その期間も長い。その弱い時期をどうするか?本書では,子どもやその家族を支える「ネウボラ」という仕組みを紹介する。我が国で,年寄りのことで困ったら,まずは地域包括支援センターへ連絡し,ケアマネさんとの対話が始まるように,フィンランドでは子どもが生まれると「ネウボラ」さんへコンタクトすることになる。我が国の母子保健が役場の保健師さんによる指導的なニュアンスを帯びるのに対し,地域にいるネウボラさんの気楽さはあるのだろう。
 こうした哺乳類である我々をサポートする仕組みが生まれるのは,なぜか。答えは簡単だ。政策を決定する側,社会をリードする側に,女性が多いからだ。1割や2割ではダメなのだ。男社会に阿(おもね)る連中が幅を利かせるだけだ。首相のサンナ・マリンが注目されるが,連立5党の党首全てが女性なのだ。近しい家族にケアをしてもらって当たり前のオッさん思考ではなく,ケアの主体となる女性が判断や決定をするのだ。当然,社会は変わる。
 かつての弱小国であるフィンランドは,先に工業化した強国・スウェーデンから「フィン,フィン」と侮蔑された人々だった。ロシアとスウェーデンに挟まれた弱小国がどう生き残りを目指したか,そんなことを考えてみてもいいはずだ。