底辺や逆境を描かせると原田ひ香は本当に強い。
今回は,生活保護からの脱却がテーマだ。受給することは権利である一方で,受給者世帯であることは世代を超えて受け継がれてしまいがちなものだ。なぜか。条件が揃った時に,抜け出すための生活様式を学ぶ機会を持てずじまいだからだ。そうした知識の習得や経験を経ず,欠落を抱えた時間というネガティブさを引き継がないための「きっかけ」がいる。それは生きる知恵や教養の類いばかりでなく,内在する意思や種銭だってそうだ。
司馬遼太郎は,かつての小学校では先生が子どもたちに鼻のかみ方やケツの拭き方を教えていたと書いていた。そうした作法や手習いの類いが日常における文明だとして,教師自身がそのことを教えるものだとして意識していたということだろう。日本に生きているからといって,必ずしも,文明的な自律した生活を送っているとは言えない。単に物質に埋もれているだけだったりするものだ。
それとともに,生きるための決意の大事さをも,あらためて思わせてくれる一冊だ。